読書日記(12/1-12/20)

12/1

人からすすめてもらった『個人的な体験』(大江健三郎)をようやく読み切る。女性であり主人公(鳥)の性的対象である火見子とかつて鳥が見捨てたゲイの菊比古が完全に鳥の成長、というか未熟さへの決別のための道具として配置されており、いっそすがすがしい。個人的には鳥側の葛藤より火見子や鳥の妻(作中では名前すら与えられていない)の内面の方が気になる。

鳥が最後には「子どものためではなく自分自身のために子どもを救うんだ」と自覚するところは好きだった。自分はどこまでも自己中心的であるということを受け入れたところからいろいろ始めていくしかないよね。

12/2

荻原規子の「西の善き魔女」シリーズは、気になっていたけど読む機会を逃してきた作品の一つだ。外伝である第6巻『金の糸紡げば』は単体でもおもしろいと聞いたので読んでみる。秋から夏へと移り変わっていく荒れ地の自然やミツバチの祭りといった風習の描写が美しく、すぐに引き込まれた。最後の断章で少しほのめかされているのだが、ディー博士が天文台を離れなかった理由、フィリエルの母の出自、ルーンの出身など、意図的な空白が気になる…!この機会にシリーズ通して読んでみようかと思ったけど、シリーズものだと「天冥の標」も途中で積んでいるので迷う。シリーズものを2つ以上同時に読むと設定や筋がこんがらがってくるからな~。

12/5

益田ミリの『お茶の時間』。実家の母親とお茶を飲みながら話しているとき、どこか別の世界で自分が生んで成長した娘(この世界では存在しない)と自分が同じようにお茶を飲んでいるかもしれないと想像する描写があった。これまで自分が取ってきた選択に応じて無数のパラレルワールドが生まれ、この世界ではうまくいっていないことも、どこかの並行世界ではうまくいっているのかもしれない。その世界に行きたいとまでは思わないけど、そうなる可能性もあったんだと考えるだけでなんとなくいやされるものがある。お茶の時間という、生活におけるエアポケットのような時間にそういう益体もないことをふわふわと想像するのが私はかなり好きだ。

12/13

ここ数年、スピリチュアリティ代替医療などに関心がある。内容自体に興味があるというより、「必ずしも科学的に証明されていないことがなぜ・どのように人々に受け入れられ、求められているのか?」に興味がある。『るん(笑)』(酉島伝法)は単行本が出たときからなんとなく気になっていたのだが、この前出た文庫版の裏にまじないや占いといったスピリチュアルなものが現在の科学のような立場にある世界の話だと書いてあり「絶対おもしろいじゃん!」と思って手に取った。やまいだれを使うと縁起が悪いということで「病気」が「丙気」になり、「癌」が「るん(笑)」になる世界。スピリチュアリティや宗教では、日常生活では聞かないような独自の用語が使われがちである。思考の統制はまず言葉から始まるものなかもしれない。

12/20

家父長制の根付いた社会で軽視されてきた女性が宇宙人や怪異の力をあやつって自分たちを虐げてきた社会そのものを破壊しようとする。「アルワラの潮の音」(小川一水『フリーランチの時代』)にも、映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」にもそういう側面がある。しかし、最終的に社会や世界は完全には破壊されない。ラヴカ(ゲゲゲの謎だと沙代)は結局主人公である男たちに退治される。主観的な世界の破壊(いわゆる「狂気」に陥って世界を拒否する話。例えば『ずっとお城で暮らしてる』)も好きだけど、私としてはもっと徹底的に破壊してほしい。一方で、そうした破壊願望の先にいざ世界が滅びるとなると、ジェンダーや年齢・経済的な状況・社会的な立場などにおける弱者がまっさきに割を食うことになる。だから主人公たちが女たちの「暴走」を止めることは正しい。正しいけど、やっぱり一回すべて破壊しようよ~と思ってしまう。

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もしよければおすすめの本を教えてください。時間はかかるかもしれませんが読んで読書日記に書きます。

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