読書日記(3/18-4/10)

3/18

文通相手がおもしろいと手紙に書いていた『赤と青とエスキース』(青山美智子)を読んだ。四章の「大切になさいね。共にいてくれる、あたたかな生き物の存在を」という台詞がよかった。犬と暮らしたいよ本当に…。

3/24

ミステリーランドの『くらのかみ』(小野不由美)。互いに知っている人たちの間に本当は知らない人間(ここでは座敷童のような存在)がまぎれ込んでいるのはわかっているけど、それが誰だかはわからないという状況はかなり怖い。耕介が事件について父親へ相談する場面がよかった。

3/30

ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品が大好きなのだが、全作品を網羅しているわけではない。ジョーンズは2011年に亡くなっていてもう新作が出ることがなく、すべて読み切ってしまうと悲しいからだ(もちろん同じ作品を何度読み返してもおもしろいのだが、初読のわくわく感や一見するとめちゃくちゃな展開に振り回される楽しさはひとしおだ)。なのでまだ読んでいない作品を取っておいて、機会のあるときに少しずつ読んでいる。

『魔法泥棒』もそのうちの一冊だ。強大な魔法の力を持ちつつもいまいちそれを自覚しているのかわからないジーラや、若い男のエネルギーを飲み尽くしている冷酷な女領主マーセニーなど、他のジョーンズ作品に出てくるキャラと似ている部分があって楽しい。ラストの方でフランがやけになってアルスの道士たちを巻き込み踊り出すところが爽快だった。はじめは物理的な攻撃をしかけるためにやって来たのに、最後には潜在的に不満をもっていた住人たちを扇動して「ええじゃないか」的に踊ることで秩序を崩壊させるのがいい。

4/9

SNSの投稿で見かけておもしろそうだなと思っていた『遺品』(若竹七海)という作品を読んだところ、ものすごくおもしろかった。ホラーとしておもしろいだけでなく、ミステリ要素もあるところがよかった。

居場所のない主人公の女性が館に魅入られていく様子や、熱狂した人々に石を投げられるシーン、ラストの展開にシャーリイ・ジャクスンっぽさを感じた(ジャクスンの作品だったらタケルは出てこないだろうけど)。

主人公の「望むとすれば、逃げ出すことのほう。いや、むしろ逃げ出さなくてもすむように望むのではないだろうか」(p.314)という独白が印象的だった。本当は「ここ」で好きな仕事に打ち込み、好きな人に囲まれて楽しく生きていければいいのだろうし、そのために努力するのが「正解」なんだろうけど、でも偏執的な人間にロックオンされたら逃げるしかない(この作品では個人対個人の執着を描いていたけど、特定の属性に対する執着めいたバウンダリーの侵害(「~~はこう生きるべき、こういう生き方こそが幸せなのだ」みたいな言説とかね)や、そうした侵害の構造化はありふれている)。なので、そういう人たちの手の届かない私の城で楽しくやらせてもらいますね、と逃げ出すのは理解できるし、けっこう惹かれる。ただ、(ラストを踏まえるとささいなことかもしれないが、)展覧会を訪れた最初の客たちを主人公が案内するシーンや、フィルムの上映前に主人公の解説へ拍手が起こったシーンなど、少しでも彼女が「ここ」で報われたと思える瞬間があってよかったな。

4/10

『遺品』がおもしろかったので、同じく若竹七海の『静かな炎天』を読んでみた。葉村晶という探偵が活躍するシリーズのうちの一冊で、おもしろかったから他の作品も読もうと思う。主人公・葉村晶はミステリ作品を中心に扱う古本屋でバイトしつつ探偵をしているということもあり、ミステリ作品の名前がよく出てくる。ブックリストとしても興味深い。